看護職のお役にたてるコラムを掲載しています。
医療現場でのアクシデントはたくさんありますが、その中で「針刺し事故」はどんな医療現場でも起こり得る事故です。この「針刺し事故」の現状や予防対策、万が一起こってしまった場合の対応策についてまとめました。現役の看護師さんや、看護師を目指す学生さんは、是非チェックしてみて下さい。
針刺し事故とは、日医雑誌第127巻・第3号では「医療従事者が業務中に、患者血液が付着した器具によって被る外傷を代表的な例として示す言葉」と定義されています。使用後の注射針や点滴の翼状針に、うっかり触れてしまうことで刺し傷や切り傷を負うことですが、問題は付着した血液などによって、HBVやHCV、HIVに感染することです。
この「針刺し事故」の発生件数は、職業感染制御研究会の「針刺しによる医療従事者の職業感染と患者への院内感染防止の課題と対策」によると、推計で年間5万件にものぼるとされていますが、実態については未確認です。
これは、未報告のままで把握されていない針刺し事故が、報告数の5~10倍と推定されるからです。
少し古いデータですが、厚生科学研究費補助金エイズ対策研究事業におけるエイズ拠点病院での針刺し事故報告件数は1996年から1999年の3年間で15,119件でした。出典:日本BD:針刺し損傷/日本の現状 Q&A
この針刺し事故の受傷者は過半数が看護師で、次いで医師が約3分の1を占めると言われています。
針刺し事故で 感染の可能性が高いものには、B型肝炎ウイルス(HBV)・C型肝炎ウイルス(HCV)・ヒト免疫不全ウイルス(HIV)があります。
それぞれの感染し発症した場合の症状や、針刺し事故による感染率※を紹介します。
※出典:日本環境感染学会・針刺し及び血液・体液曝露防止
・感染リスク
感染率30%(免疫がない場合)
・症状
発熱、倦怠感、疲労感、食欲不振、悪心・嘔吐、黄疸。
感染しても症状の現れない不顕性感染が70~80%、残りの20~30%の顕性感染(急性肝炎)のうち1~2%が劇症肝炎発症の危険性あり。
・感染リスク
感染率1.8%
・症状
発熱、倦怠感、疲労感、食欲不振、悪心・嘔吐、黄疸。
B型肝炎と同じように70~80%は不顕性感染。慢性肝炎に移行する確率が高く、肝硬変・肝臓がんに進行する可能性あり。
・感染リスク
感染率0.3%
・症状
感染後2~4週間後に発熱、倦怠感、のどの痛み、下痢など風邪やインフルエンザとよく似た症状の急性期の後、5~10年の無症候期(潜伏期間)を経て発症する。
23のAIDS指標疾患のいずれかを発症した場合に、AIDS発症とされる。
出典: 全国エピネット日本版A2013 サーベイランス結果抜粋
点滴や注射の最中に発生することがもっとも多く、次いで廃棄容器関連の受傷、つまり、廃棄されたものに誤って接触してしまう場合が多くなっています。
注射針、翼状針、縫合針などが、針刺し事故の多く発生する器材となっています。
以上の結果から、針刺し事故の発生しやすい状況は、病室や手術室での処置中、使用後のリキャップ時、廃棄容器の取り扱い時などが考えられます。・手袋の着用
・処置中の人にはできるだけ近づかない
・針を持って歩いたり、人に向けたりしない
・針を点滴ボトルのゴム部に刺したり、スタンドなどにテープで留めたりしない
・広いスペースを確保して処置する
・リキャップしない
・落ち着いて処置する
・使用後の針は使用者が責任を持って廃棄する
・専用の容器に確実に廃棄する
・廃棄物の入った容器にさわったり、手を入れたりしない
・廃棄物容器はしっかり蓋をする
・容器は簡単に倒れないようにし、邪魔にならない場所に保管する
①患者さんの安全を確保し、直ちに作業を中止する
②傷を確認する
③血液を絞り出しながら流水で十分に洗い流し、エタノールなどで消毒する
④上司に報告する
針刺し事故によって起こり得る曝露への対応は、各施設でマニュアル化し徹底されています。
大阪市立大学医学部附属病院の「医療安全管理ポケットマニュアル」から、針刺し・血液体液曝露事故対応マニュアルフローチャートを紹介します。
HBVやHIVの場合には、抗HBsヒト免疫グロブリンの投与や抗HIV薬の内服によって感染を予防できる場合もあります。
HCVに関して、現時点において、曝露後の予防策がありません。
何よりまず針刺し事故を起こさないように「スタンダードプリコーション」を徹底し、事故を未然に防ぐことが大切です。
万が一起こってしまった場合にも、「忙しいから…」「大丈夫だったから…」と報告せずに済ませたりしないで、何より再発を防止するために、インシデント・アクシデントリポートを作成して報告しましょう。
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